松村寧雄先生にいただいた言葉の数々は、今もなお私の人生の深い指針となっています。
なかでも忘れられないのが、「師を殺せ」という衝撃的な一言でした。

それは、私が初めて参加した2007年の年間シリーズセミナー、第1回目のあとの懇親会でのことでした。会場は、今はもう存在しない虎ノ門パストラル。乾杯のあと、先生の向かいに座らせていただき、自己紹介をする流れとなりました。

当時の私は、1998年に起業した経緯や、渡邉美樹さん(ワタミ創業者)と7年間仕事をご一緒したことなどをお話ししました。その経験から、経営者として自分を磨き続けたいという強い思いを抱いており、渡邉さんを理想の経営者像としているともお伝えしました。

すると、松村先生は深くうなずかれた後に、こう尋ねられたのです。

「では、あなたの目の前に渡邉美樹さんが現れたとしたら、あなたはどうする?」

私は少し考えて、「今の自分があるのは渡邉さんのおかげ。これからも相談に乗ってもらいたい」といった趣旨の答えを返しました。
それに対して先生は、少し声を張って、こう言い放ったのです。

「違うんだよ。殺すんだ。目の前に現れた師は、殺すんだ。」

一瞬、言葉の意味が理解できず、私は思わず「殺す……?」とつぶやきました。
すると先生は笑顔でこう続けました。

「そう、殺すの。目の前に現れる師も、親も、殺すの。」

あの瞬間の衝撃は、今でも心に鮮明に残っています。
当時は深い意味までは理解できませんでしたが、後になって、あの言葉が『臨済録』の中の禅僧・臨済義玄の教えに由来していることを知りました。


『臨済録』より

逢仏殺仏、逢祖殺祖、逢羅漢殺羅漢、逢父母殺父母、逢親眷殺親眷、始得解脱、不与物拘、透脱自在。

仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺し、羅漢に逢うては羅漢を殺し、父母に逢うては父母を殺し、親眷に逢うては親眷を殺し、始めて解脱を得て、物と拘ることなく、透脱自在ならん。


これは、仏や祖師、羅漢といった崇高な存在はもちろん、両親や親族、そして自分自身が拠り所としているあらゆるものから自由になることによって、初めて真の「解脱」=自由を得ることができる、という教えです。

松村先生の「師を殺せ」という言葉は、まさにこの精神を体現したものであり、
誰かの価値観をそのままなぞるのではなく、権威に依存せず、固定観念に縛られず、
自らの手で、自らの真理を掴み取れ─という強烈なメッセージだったのです。

あれから18年。
私にとってこの言葉は、問い続ける言葉になりました。私の公案となりました。
「自分は、主人公として人生を生きているか?」「本当に、自分自身の道を歩んでいるのか?」
そう問い直すたびに、あの日の先生の声が蘇ります。

自己固有の人生を掴み取ること。
それこそが、私のテーマであり、マンダラ手帳を活かした生き方の核心でもあります。

同じように、迷いや葛藤のなかにいる方にこそ、この言葉が届くことを願います。

マンダラチャートを通じて「自分自身の師を超える旅」を生きましょう。
一緒に“自分だけの道”を歩んでいきましょう。

投稿者プロフィール

本領亮一
1967年千葉県松戸市生まれ。青山学院大学卒業後、大和証券系VC、ワタミ、CCCを経て31歳で株式会社ジップを創業。22年間ブックオフ加盟店4店舗を運営し、2020年事業譲渡後、株式会社本領として新たなスタートを切る。
現在はマンダラチャート認定コーチとして、仏陀の智慧を経営に活かす活動や、合氣道の指導、経営戦略・人生論の研究を続けている。noteやSNSで日々の学びと気づきを発信している。