白隠禅師が遺した禅偈、人間の本質を鋭く照らす一句です。
『君看みよや双眼の色、語らざれば愁い無きに似たり』
《 君看双眼色、不語似無愁 》
つまり、人は言葉には出さずとも、眼差しにその深い感情が宿る。
語らぬことが、必ずしも「愁いの無さ」を意味するわけではない——
むしろ、その沈黙の中にこそ、人生の真実がにじみ出ているのです。
私はこの一句を通して、人が秘めた悲哀といかに向き合うか、その問いに深く惹きつけられます。
現代を生きる私たちにも、仏陀や白隠のような先達と同じく、「苦」と「再生」の道筋が見出すことができるはずです。
白隠禅師の偈に秘められた、人間の本質
臨済宗中興の祖・白隠慧鶴(1685–1768)は、生涯にわたり人々を「生きる目覚め」へと導いてきた禅僧です。
彼の言葉「君看よや双眼の色」は、人間存在の根源的な悲哀と、それにどう立ち向かうかを鋭く問いかけています。
仏陀は人生は「苦」だと言っています。
苦しさ、悲しさから目を背けるのではなく、それを受け入れ、乗り越えるとき、人ははじめて「真の独立自尊の魂」に目覚める。
悲しみは「智慧の入口」である
仏陀の教えにおいて、苦しみ(苦)は人生の出発点であり、無視できない現実です。
白隠もまた、人生の実相としての「苦」を隠さず、その先にあるものへと人々を導いたのでしょう。
この苦しさ、悲しさに対する態度の違いこそが、人生の質を左右します。
逃げるのではなく、静かに見つめること。
そのまなざしこそが、「君看よや双眼の色」に象徴されているのです。
どんなに立派に見える人でも、美しい眼で泰然自若としている人でも、人として生まれた苦悩を抱えている。
苦しみの根源は「無明」にある
人はときに、問題を直視することが怖くて、無関心を装います。
けれども、その無関心の奥には、恐れや悲しみが渦を巻いていることも多いのではないでしょうか。
仏教では、その苦悩の根本を「無明(むみょう)」と呼びます。
無明とは、「真理が見えない心の状態」。
そこから貪り(欲望)、瞋り(怒り)、愚かさ(無知)が生まれ、さらに自己への執着「我執」が苦しみを増幅させていきます。
無明は、誰もが持っている人間の影の側面です。
しかしそれを知ることから、変容の道は始まります。
仏陀の智慧の核心:四諦と八正道
仏陀は、「苦しみから解放される道筋」として、「四諦」というフレームを示しました。
- 苦諦:人生には苦しみがあることを、まずは正面から受け止めること。
- 集諦:その苦しみの原因が「無明」や「欲望」「執着」にあることを見抜くこと。
- 滅諦:「無明」が滅したとき、心は自由になり、涅槃(ねはん)の境地に至る。
- 道諦:その涅槃に至るための「実践の道」が、八正道です。
八正道とは、日常生活の中で実践できる「智慧」「倫理」「集中」の8つの道。
特別な修行を意味するものではなく、心の持ち方と行動のバランスを整える実践哲学なのです。
- 正見:物事をありのままに見る。空。相互依存。
- 正思:真っ直ぐな意志を持つ。
- 正語:正しい言葉を話す。嘘や悪口を避け、真実で優しい言葉を口に出す。
- 正業:正しい行い。殺生・盗み・不道徳な行為を避ける。
- 正命:正しい生活。正当な手段で生計を立て、自他を傷つけない。
- 正精進:正しい努力。善を積極的に行い、悪を防ぐ努力を続ける。
- 正念:正しい意識。心や感情を観察し、とらわれない意識を保つ。
- 正定:正しい精神統一。瞑想などで心を集中し、安定した精神状態を築く。
結びに:悲しみの中に、あなたの光がある
「君看よや双眼の色」。
この一句に込められた真理は、悲しみは人生の妨げではなく、光への入り口であるということです。
白隠の禅は、その入り口で立ち止まり、静かに目を凝らすことを教えてくれます。
マンダラチャート、マンダラ手帳は、その先へ一歩踏み出すための羅針盤を与えてくれます。
悲しみがあるからこそ、人は誰かを慈しみ、夢を抱き、歩き続けられる。
投稿者プロフィール

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1967年千葉県松戸市生まれ。青山学院大学卒業後、大和証券系VC、ワタミ、CCCを経て31歳で株式会社ジップを創業。22年間ブックオフ加盟店4店舗を運営し、2020年事業譲渡後、株式会社本領として新たなスタートを切る。
現在はマンダラチャート認定コーチとして、仏陀の智慧を経営に活かす活動や、合氣道の指導、経営戦略・人生論の研究を続けている。noteやSNSで日々の学びと気づきを発信している。
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